令和4年度盛岡第三高等学校第一学年総合探究授業同行レポート★釜石平田コース
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【全体テーマ】
東日本大震災から再生した水産業、持続可能性のある漁業とは?
【プログラム内容・提供者】
1.講義:三陸の漁業の課題と現状 ~ “近くて遠い” 海と漁業
すなどり舎 代表/岩手大学 研究・地域連携部 三陸水産研究センター 特任専門職員 齋藤 孝信さん
2.水産業探求体験(フィールドワーク)
(1)グループA:砂浜探検・ビーチコーミング
岩手大学 大学院 総合科学研究科 地域創生専攻 水産業革新プログラム 菅野 智愛さん
(2)グループB:漁村の震災復興・浜のお母さんから聞く発災から復興
大震災かまいしの伝承者/釜石湾漁協白浜浦女性部 部長 佐々木 淳子さん
(3)グループC:持続可能な漁業・魚食普及と地産地消を考える魚さばき
釜石市地域おこし協力隊(岩手大学OB) 清原 拓磨さん
<サポート>岩手大学 農学部 食料生産環境学科 水産システム学コース 工藤 智久さん、井田 幸助さん
◎全体のコーディネート:すなどり舎 代表/岩手大学 研究・地域連携部 三陸水産研究センター 特任専門職員 齋藤 孝信さん
【当日の様子】
当日は心配されていた天候も回復し、絶好の総合探求日和(?)となりました。
バスも予定時間よりやや早く到着し、生徒さん35名と先生2名の37名が釜石市平田の地に降り立ちました。
会場となった岩手大学釜石キャンパス(三陸水産研究センター)は、水産海洋分野に係る実用化研究の拠点として、
水産業をリードする人材の育成により新たな地域創生モデルを目指す場所として注目されています。
(1)講義 <午前中>
【テーマ】三陸の漁業の課題と現状 ~ “近くて遠い” 海と漁業 ~
講師を務めた齋藤孝信さんは、大手釣具メーカーに勤務、転職、そして2001年に独立。2016年に滋賀県大津市より釜石へ移住、総務省復興支援員(釜援隊)として漁業担い手の確保と魚食普及仕事に取り組み、2021年に「すなどり舎」を設立、2022年4月からは岩手大学釜石キャンパス(三陸水産研究センター)の特任専門職員としてもご活躍されています。
《概要》
・ 生活の中で直接目にする機会があり身近に感じられる農業と船に乗らないと見えない漁業の違いについて
・ 安心安全な食、生産者の顔が見える関係性を求める昨今の消費者について
・ 皆さんに知って欲しい三陸の漁業のこと(エコな漁業/定置網・養殖、磯焼けや不漁、魚食普及や健康志向)
・ 三陸の海で起こっていることについて(海水温の上昇や海洋ゴミの問題)
・ 地産地消の本質について
・ 三陸の海と漁業を取り巻くSDGs8つの項目について
最後に、Climate Clock(クライメント・クロック)に関する紹介があり、「あなたは今日の学びから自分の生活を見つめなおすことができますか?」という問いを生徒さんに投げかけて終了となりました。
わたしとしては、漁業の震災復興に関するお話の中であった「獲った魚は市場に揚げればすぐにお金になるが、養殖はお金になるまで牡蠣で2年、ホタテで3年程度かかる」ということ、地産地消に関するお話の中であった環境に配慮した「フードマイレージ」という考え方、また、唐桑半島の事例で「森は海の恋人」として山に広葉樹を植樹する活動を行っている事例などが印象に残りました。
海と魚を愛し、水産業の課題解決に取り組みながら地域と向かい合ってきた斎藤孝信さんのご説明は、具体的で理解しやすく水産業の重要さを改めて認識させられるものでした。
(2)体験学習<午後>
① 砂浜探検・ビーチコーミング(グループA:14名)
唐丹町荒川地区までバスで移動し、海岸で漂着物などのゴミを拾い集める作業を行いました。
殆ど砂浜に埋まっていた車の大きなタイヤを苦労して回収するという一幕もありつつ(震災当時のものなのか、壁掛け時計の文字盤の破片もありました…)、海岸一帯はとても綺麗になりました。
集めたゴミは釜石キャンパスに持ち帰り、金属・プラスチック・布類に分類し、空き缶などは消費期限の記載からいつ頃の物なのか確認しながら、皆で改めて環境問題について考察しました。
② 漁村の震災復興・浜のお母さんから聞く発災から復興(グループB:8名)
平田の尾崎白浜地区まで岩手大学の公用車で移動し、「大震災かまいしの伝承者」である佐々木淳子さんからお話をお伺いしました。
尾崎白浜は釜石湾内の南に位置する全100戸ほどの漁村集落です。
佐々木淳子さんは釜石湾漁協白浜浦女性部の部長さんでもあり、自主防災組織・尾崎白浜婦人消防協力隊の隊長さんでもあります。
最初に尾崎神社の高台に上がり、あの日(2011年3月11日)津波が来た時の様子の説明を受けました。
目の前には穏やかな釜石湾や尾崎白浜漁港が広がっていますが、資料に掲載されている写真は、引き波で港の海底が丸見えの状態でした。
また、津波襲来時の写真には船舶や建物がぐちゃぐちゃになって流されている様子、遠く湾口防波堤が散り散りになっている様子が映っています。その津波が今、説明を受けているこの場所の高さまで到達したというお話に「信じられない」、「津波は恐ろしい」といった感想が聞こえてきました。
屋外での説明の後、コミュニティセンターに入り、津波後の様子をお伺いしました。
・ 廃校になっていた小学校を避難所として地区の住民が集まり避難生活をしたこと。
・ 生活用品や食料を持ち寄り、力を合わせて毎日を乗り切ったこと。
・ 生業の復活のために、共同で養殖漁場を整備し、中古の漁船を探し回ったこと。
・ 国からの支援で破壊された湾口防波堤が完成し、漁港が使えるようになったこと。
生徒さん達は、地震と津波で失われたハードと心の復興に長い期間を要したけれど、住民が力を合わせて乗り切ったというお話に、浜で暮らす人たちの絆の強さを感じた様子で、当時の遺体安置所の状況を聞いている顔は皆真剣そのものでした。
自分の命を守るために「備える・逃げる・戻らない・語り継ぐ」という釜石市市民防災憲章があります。
「生きる」ということについて、生徒さん達は今回のグループワークを通して大切なことを学んだ様子でした。
③ 持続可能な漁業・魚食普及と地産地消を考える魚さばき(グループC:13名)
まず、その日の朝に釜石の近海で採れたばかりのソッコ(ブリの幼魚)とのご対面、思っていたよりデカッなどと驚きながらもスマホで熱心に撮影する生徒さん達。
講師の清原さんから、魚さばきの手順(頭を落とす、内臓を取る、身をおろす)やポイント(力を入れない、まな板は常に清潔に、身に水分を触れさせない等)をご説明いただきながらの実演、レクチャーを受け、早速3グループに分かれてソッコの3枚おろしに挑戦です。
サポート役の岩手大学の工藤さんと井田さんのアドバイスを受けつつ、グループ内でお互いに助け合いながら3枚おろしを完了。さばいたソッコは、から揚げの南蛮漬けと塩たきにしました。
《生徒さん達の声》
・ 生魚に触れたのは初めて。
・ 普段料理することはあっても、魚をさばいたことはなかったので、とても難しかった。
・ もっと上手くさばけるようになりたい。
・ こんなにおいしい魚は食べたことない、もっと食べたい。
・ お肉のから揚げよりもおいしい。
・ 今度スーパーに行ったら、産地に注目してみたい。
引き続いて実食タイム、皆さん自然と笑顔になっています。(自分たちでさばいた魚を使った料理、きっと美味しさも格別ですよね。)
最後は、フィールドワークから戻ってきた別のグループも合流して皆でワイワイガヤガヤ(笑)
(3)共有・振り返り
3グループの代表者から、それぞれの体験内容や感想を全体に共有しました。
Aグループからは、今日のビーチコーミングだけであれだけの量になったため、世界規模になるとどれだけの量になるのだろうと考えさせられたこと、Bグループからは、階段を上ってここまで津波が到達したという場所を体験できたこと、家や防波堤が滅茶苦茶になっていた様子が写っていた当時の写真が印象に残ったこと、Cグループからは、サポートの方々の協力を得ながら魚の三枚おろしを習得できたことなど発表がありました。
《まとめ(齋藤孝信さんより)》
・ 実際に現場に来て初めて分かることがある。
・ なぜ現地に釜石キャンパスがあるのか、それは現場に近いから。
・ 今日の体験から1つでも何かの糧になれば嬉しい。
・ 楽しみながら色々なことにチャレンジして欲しい。
また、この先の進路に「岩手大学農学部の水産システム学コースを選択肢に加えて欲しい」という勧誘のようなお話もありました。(笑)
【レポート作成者より】
海との関わりが産業の基盤になっている三陸地域にある研究施設で、漁業の現状と課題について学習し、それぞれ3つの体験(ビーチコーミング・震災学習と語り部・魚さばき)を通して、社会が抱える問題、津波の脅威と地域の団結、海の恵みなどについて実感できたことと思います。
ここで学んだことが家族で囲む食卓での話題となったり、この先の進路や人生において、何らかのヒントやきっかけになることがあれば幸いだと思います。
また、今回の実施にあたり、斎藤孝信さんを始めとして、地域おこし協力隊の清原拓磨さん、岩手大学の菅野智愛さん、工藤智久さん、井田幸助さん、尾崎白浜の佐々木淳子さん、そして会場として施設をご提供いただきました岩手大学釜石キャンパスの皆様、ありがとうございます。大変お世話になりました。
※注意:行程内ではマスク着用・手指消毒を心がけ、全体写真の時だけ一部マスクを外しております。
【本編でご紹介した団体・施設のご案内(※ホームページ情報があるもののみご紹介します)】
★すなどリ舎
【レポート:いわて復興応援隊 菊池 啓】
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